農地所有適格法人が農業経営基盤強化準備金制度を活用すれば、利益を将来に繰り延べることができます。
投稿日:2017.04.25
農地所有適格法人で、かつ認定農業者又は特定農業法人であれば、青色申告を行っていることが前提ですが、農業経営基盤強化準備金制度を活用できます。
通常、対象となる交付金を受け取った場合、交付金は利益として計上されるため法人税がかかります。ところが、農業経営基盤強化準備金制度を適用すると、対象となる農地等を購入するためにその交付金を準備金として積み立てる場合には利益がなかったものとなるのです。「準備金として積み立てるって、なんのこと?」と疑問に思った方もいるかもしれません。これは会計上の売上、営業外収益、特別利益という勘定科目で交付金が計上されても、それを紙面上で準備金に名称を変更するという処理なのです。
対象となる交付金は大きく3種類あります。
科目 |
対象交付金 |
具体的な内容 |
売上 |
生産条件に関する不利を補助する交付金 |
畑作物の直接支払交付金(面積支払、数量支払) |
営業外収益 |
経営所得安定対策交付金 |
米の直接支払の交付金 |
水田活用の直接支払の交付金 |
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特別利益 |
収入減少が農業法人に及ぼす影響を緩和するための交付金 |
収入減少影響緩和の交付金 |
収入減少影響緩和対策移行円滑化の交付金 |
これを見ると分かりますが、畜産業には対象となる交付金がありません。
さらに、この農業経営基盤強化準備金制度が使いやすい理由があります。それは、交付金をもらった年度に対象となる農地等を買う必要がないことです。あくまで交付してもらった日の属する事業年度末の翌日から5年以内に使えばよいのです。使った時に準備金を農地等の固定資産に振り替えていくことになります。もし5年を経過しても準備金として残っているものに関しては、経過したものから順次、利益として計上していきます。このときでも、他の経費があれば通算もできますので、必ず法人税がかかるわけでもありません。
また対象となる農地等に関しても、下記のようにかなり広範囲に及ぶことになります。
農地等 |
・農地 ・採草放牧地 (例えば、養畜の事業のための採草、家畜の放牧の目的の土地など) |
特定農業用機械等 |
・農業用の建物、建物附属設備 ・農業用の構築物 ・農業用設備(器具備品、機械装置、ソフトウエア、例えば、大型の温室、農機具庫、農産物貯蔵庫、果樹棚、ビニールハウス、用排水路、暗きょ、トラクター、乾燥機、精米機、飼料細断機、農業用低温貯蔵庫、フィールドサーバー、農作業管理ソフトなど) |
このように、農地所有適格法人であれば、ぜひ農業経営基盤強化準備金制度を使うべきですが、途中で税法上の要件を満たさなくなると、準備金が一度に利益に振り替わり、法人税がかかってしまいます。そこで、要件を1つずつ確認しておきましょう。
1つ目が、農地所有適格法人であることです。これは農地法2条第3項の要件を満たす必要があります。特に、常時従事者、農地を提供した個人、農地を貸し付けている個人、地方公共団体、農協等の議決権が総議決権の1/2超という要件があるので、常時従事者が辞める場合には注意が必要です。それ以外に途中で要件が満たせなくリスクは少ないでしょう。
2つ目が、認定農業者又は特定農業法人であることです。認定農業者は全国で24万件もいますが、特定農業法人は全国的に1000件ぐらいなので、通常は認定農業者になるはずです。こちらはそれほど取得も難しくなく、しかも途中で認定農業者でなくなるということは農業の事業を止めない限りないでしょう。
3つ目が青色申告であることです。一般の株式会社であれば、会社を作った時に会計事務所が開業届と一緒に青色申告の届出も必ず提出します。ところが農地所有適格法人を設立した人が、自分で申告するつもりで会計事務所に相談しないと青色申告の届出を忘れてしまうことがあります。青色申告の届出は農地所有適格法人を設立してから3か月以内が提出期限となっています。もし1期目に忘れてしまった場合でも、翌事業年度からは青色申告になれますので、すぐに提出しましょう。そして一番の問題は、途中で青色申告を取り消されてしまう場合です。農地所有適格法人が脱税などを行うと、青色申告を取り消されてしまいますが、これはあまり例がないはずです。一方、農地所有適格法人が2期連続で期限後申告をすると、青色申告が取り消されてしまうのです。期限後申告とは法人税の場合、決算日から2か月以内に申告書を提出しなくていけないところ、それを超える場合を指します。農地所有適格法人が黒字ではない場合、別に急ぐ必要はないと考えて期限後に申告すると、突然、準備金を取り崩されて法人税を追徴されてしまうことがあるので、期限は守るようにしましょう。